
親の生前整理を手伝っていると、「とりあえずノートに書いてもらえば安心」と思う一方で、「これって遺言書とは違うのか」「デジタルの契約はどう書けばいいのか」が分からず、手が止まることがあります。
結論から言うと、エンディングノートは家族に「伝える」ためのもの、遺言書は財産の分け方を「法的に決める」ための書面です。役割が違うので、書く内容も使い方も変わります。ここでは、エンディングノートに書く7つの項目と、遺言書との使い分け、デジタル終活の進め方を、法務省と国民生活センターの情報にもとづいて整理します。
エンディングノートと遺言書の違い(伝える/法的に決める)
エンディングノートとは、家族へ伝えたいことを自由な形式で書き残すノートです。 市販のものでも手持ちのノートでもよく、内容に法的拘束力はありません。医療の希望、連絡先、資産の一覧、デジタルの契約情報などを、家族が困らないように整理して伝える役割を持ちます。
遺言書とは、民法の要件を満たせば法的効力を持ち、財産の分け方を決められる書面です。 自筆証書遺言は、一般に全文・日付・氏名を自書し押印する必要があり、パソコンでの作成や代筆は無効とされています(財産目録の部分は例外的にパソコン作成が認められています)。厳密な作成方法は公証役場・司法書士・弁護士に確認するのが確実です。
つまり、「誰に何を伝えたいか」はエンディングノート、「財産を誰にどう分けるか」を確実に実行したいなら遺言書、という使い分けになります。両方に希望があるなら、両方を用意して構いません。次の章では、エンディングノートに実際に書く項目を見ていきます。
エンディングノートに書くこと(7つの項目)
書く順番に決まりはありませんが、次の7項目を押さえておくと、家族が迷いにくくなります。
- 自分のこと 本籍、マイナンバーの保管場所、血液型、かかりつけ医
- 資産 預貯金(銀行・支店・口座)、保険、不動産、有価証券、借入・ローン
- デジタル スマホのロック解除方法、ネット銀行・証券、スマホ決済、サブスク、SNS、メール
- 医療・介護の希望 延命治療、告知、介護してほしい場所
- 葬儀・お墓 形式、規模、宗派、連絡してほしい人・しなくてよい人
- 家族・大切な人へのメッセージ ペットのことも含める
- 遺品・形見 残してほしいもの、処分してよいもの、渡したい人
このうち3のデジタルは、後回しにされやすく、実際に家族を困らせる項目です。次の章で詳しく見ていきます。
デジタル終活|サブスク・ネット銀行・SNSの棚卸し
国民生活センターには、遺族が故人のサブスクや通販の有料会員を解約したくても、IDやパスワード、スマートフォンのロック解除方法が分からず手続きできないという相談が寄せられています。オンライン契約は書面ではなくメールで交付されることが多く、家族が契約の存在自体に気づけないケースもあります。
エンディングノートには、次のようなデジタル資産・契約を書いておきます。
- ネット銀行・ネット証券(サービス名・ID)
- スマホ決済(QRコード決済、電子マネー)
- サブスクリプション(動画・音楽・クラウドストレージ)
- SNS・メール(アカウント名、削除するか残すかの希望)
- スマートフォン・パソコンのロック解除方法
パスワードそのものを紙に書くのは不安という場合は、パスワード管理アプリを使い、そのアプリのマスターパスワードだけを家族が確認できる形で残す方法もあります。デジタルの棚卸しができたら、次は財産の分け方に希望がある場合の対応を見ていきます。
財産の分け方に希望があるなら遺言書も(自筆証書遺言と法務局の保管制度)
エンディングノートに「誰に何を渡したいか」を書いても、法的な効力はありません。特定の相手に確実に財産を渡したい、法定相続分と違う分け方をしたい場合は、遺言書を検討します。
自筆証書遺言を自宅で保管すると、紛失・改ざん・発見されないリスクがあります。これを防ぐ制度として、法務省の自筆証書遺言書保管制度があります。
- 開始 令和2年(2020年)7月10日から
- できること 作成した自筆証書遺言を法務局(遺言書保管所)に預けられる
- 保管の申請手数料 一件につき3,900円
- その後の手数料 遺言書の閲覧(モニター)1回1,400円、原本閲覧1,700円、遺言書情報証明書の交付1通1,400円
- 撤回・変更 手数料はかからない
自宅保管より確実に紛失・改ざんを防げるうえ、この制度を使った遺言書は相続時の家庭裁判所の検認が不要と案内されています。個別の相続手続きの要否は、専門家や家庭裁判所に確認してください。厳密な作成方法まで相談したい場合は、公証役場での公正証書遺言も選択肢になります。
どこに保管する・誰に伝えるか
エンディングノートは、書いた場所を家族の誰か一人には伝えておくことが前提になります。仏壇の引き出し、書斎の決まった場所、貴重品と一緒の金庫など、探されやすい場所を選びます。
- 一人にだけ知らせる より確実です。全員に開示すると、途中で内容が変わったときに混乱します
- 医療・介護の希望は主治医や家族と話し合っておく ノートに書くだけでなく、口頭でも共有すると、いざというときに迷いが減ります
- 遺言書は公証役場や法務局の保管制度に預ける 自宅に置きっぱなしにしない
書く場所と伝える相手が決まったら、あとは書き続けるだけです。最後に、無理なく続けるコツを整理します。
書き方のコツ(一度に完璧を目指さない・毎年見直す)
エンディングノートは、一度で完成させる必要はありません。 資産やデジタルの契約は、年々変わります。判断力・体力があるうちに書き始め、毎年決まった時期(誕生日や年末など)に見直すと、内容が古くならずに済みます。
厚生労働省の集計では、介護などを必要とせず日常生活を送れる健康寿命は男性72.57歳・女性75.45歳(令和4年・2022年)です。この年齢を過ぎると、細かい情報の整理が負担になりやすくなります。「まだ早い」と感じるうちに、自分のことと資産の欄だけでも書いておくのが、結果的に一番楽な進め方です。
エンディングノートは生前整理の一部です。物の片付けから始める全体の進め方は生前整理はいつから始める?、生前整理と遺品整理の違いをもっと詳しく知りたい方は生前整理と遺品整理は何が違う?を参考にしてください。
福井で相談するなら
エンディングノートの書き方に法律の決まりはないため、まずは自分で書き始めて構いません。財産の分け方や遺言書の要件で判断に迷う場合は、公証役場・司法書士・弁護士に相談します。
一方で、エンディングノートに「残すもの・処分してよいもの・貴重品の在りか」を書いておくと、遺族が急いで判断を誤るリスクを減らせます。国民生活センターには、遺品整理サービスで見積もり時に契約を急がされる、当日に高額な追加請求をされるといった相談が毎年寄せられています。事前にノートで方向性が分かっていれば、業者との打ち合わせでも落ち着いて確認できます。遺品整理業者を選ぶときの手順は遺品整理業者の選び方、現金や貴重品が見つかったときの扱いは遺品整理で現金が出てきたら?にまとめています。
何から書き始めればいいか迷うときは、資産の種類や気になっているデジタル契約を相談フォームからお送りいただければ、書く順番の整理をお手伝いします。
よくある質問
エンディングノートと遺言書は何が違いますか?
エンディングノートは形式が自由で、法的拘束力がありません。家族に「伝える」ためのノートです。遺言書は民法の要件を満たせば法的効力があり、財産の分け方などを「法的に決める」書面です。両方の役割が違うため、財産の分け方に希望があるなら遺言書も作ります。
エンディングノートには何を書けばいいですか?
決まった形式はありませんが、(1)自分のこと、(2)資産、(3)デジタル、(4)医療・介護の希望、(5)葬儀・お墓、(6)家族へのメッセージ、(7)遺品・形見の7項目を書いておくと、家族が困りにくくなります。デジタルの契約情報は見落としやすい項目です。
エンディングノートは無料で作れますか?
市販のノートを買わなくても、手持ちのノートやパソコンのファイルで作れます。市町村や金融機関が無料で配布している場合もあります。形式は自由なので、書きやすい方法で始めて構いません。
自筆証書遺言はどこに保管すればいいですか?
自宅で保管すると紛失・改ざん・発見されないリスクがあります。法務局の自筆証書遺言書保管制度を使うとこうしたリスクを防げ、申請手数料は一件3,900円です(閲覧・証明書交付は別料金)。厳密な作成方法や個別の相続手続きは、公証役場や司法書士・弁護士に相談してください。
エンディングノートはいつ書き始めればいいですか?
決まった時期はありませんが、判断力・体力があるうちに始めるのが基本です。健康寿命は男性72.57歳・女性75.45歳(2022年)。一度に完璧を目指さず、書けるところから始めて毎年見直すと続けやすくなります。


