限定承認とは|借金の額が不明な相続で使える方法・期限3か月

公開:2026.09.28更新:2026.09.28杉野龍泉のプロフィール写真監修:杉野龍泉(遺品整理コンサルタント/合同会社CIELIS代表)
限定承認とは|借金の額が不明な相続で使える方法・期限3か月のイメージ

親の家を片付けていて、通帳や督促状が出てきて「借金があるかもしれない」と気づくことがあります。全部を相続してよいのか、それとも放棄すべきなのか、財産と借金のどちらが多いか分からないまま判断を迫られる場面です。

こうしたとき、家庭裁判所は相続人に三つの選択肢を用意しています。単純承認・相続放棄、そしてその中間にあたる限定承認です。限定承認とは、相続によって得た財産の限度でのみ故人の借金の負担を引き継ぐ方法で、財産が残ればそのまま相続できます。ただし、相続人全員が共同で、3か月以内に家庭裁判所へ申述しなければならず、受理されたあとも官報公告や財産の換価といった手続きの負担が続きます。

ここでは、限定承認の仕組みと条件、費用、手続きのあとに待っていること、税金の注意点、そして限定承認を考えている段階での遺品整理の進め方を、裁判所と法令の情報にもとづいて整理します。

限定承認とは|相続した財産の範囲で借金を払う方法

まず、限定承認が三つの選択肢のどこに位置するかを見ていきます。

相続が始まると、相続人は次のいずれかを選べます。

  • 単純承認 権利も義務もすべて受け継ぐ
  • 相続放棄 権利も義務も一切受け継がない
  • 限定承認 相続によって得た財産の限度でのみ、借金や遺贈の負担を引き継ぐ

限定承認とは、相続人が相続によって得た財産の限度においてのみ被相続人の債務を弁済すべきことを留保して、相続の承認をする方法です(民法922条)。裁判所は「被相続人の債務がどの程度あるか不明であり、財産が残る可能性もある場合等」に選べる方法だと説明しています。借金の総額がはっきりしないが実家や預金も残っている、というケースに向いています。

三つの違いをもう少し具体的に、次の表で確認します。

単純承認・相続放棄・限定承認の違い(比較表)

限定承認がどんな場面で向くのか、単純承認・相続放棄と並べて見ます。

単純承認・限定承認・相続放棄の比較表

限定承認は「借金の額が分からないが、財産が残る可能性もある」ときの選択肢です。ただし、相続放棄は各相続人が単独でできるのに対し、限定承認は相続人全員が共同でのみ行えます。兄弟や他の相続人がいる場合は、まず全員で方針を共有する必要があります。相続人どうしで足並みがそろわないときの進め方は兄弟で進める遺品整理にまとめています。

限定承認を選ぶ場合、実際にはどんな条件を満たす必要があるのか、次に見ていきます。

限定承認の条件|相続人全員で、3か月以内に、財産目録を添えて

限定承認には、三つの条件があります。

1. 相続人全員が共同で行う 相続人が複数いる場合、限定承認は共同相続人の全員が共同してのみ行えます(民法923条)。一人でも反対すれば成立しません。相続放棄と違い、単独で選べない点が限定承認の大きなハードルです。

2. 3か月以内に申述する 期限は、相続の開始を知ったときから3か月以内です。財産の調査に時間がかかり、3か月では判断できない場合は、期間内に家庭裁判所へ「熟慮期間の伸長」を申し立てれば延ばせます。相続放棄における3か月の考え方や、期限を過ぎた場合の扱いは遺品整理と相続放棄で詳しく解説しています。相続まわりの他の期限とあわせて確認したい場合は相続手続きの期限一覧も参考にしてください。

3. 財産目録を作成して提出する 相続人は、3か月の期間内に相続財産の目録を作成し、家庭裁判所に提出して限定承認をする旨を申述しなければなりません(民法924条)。目録には、分かっている財産と債務をできるだけ正確に記載します。

相続人の一人がすでに相続放棄している場合に、残りの相続人だけで限定承認ができるかどうかは、個別の事情によって扱いが変わる論点です。判断に迷う場合は、早めに弁護士・司法書士に相談してください。

条件を満たして申述する場合、具体的にどこへ何を提出し、いくらかかるのかを見ていきます。

申述先と費用|故人の最後の住所地の家庭裁判所・収入印紙800円

申述先は、被相続人(故人)の最後の住所地の家庭裁判所です。申述に必要な費用は収入印紙800円分で、郵便料は裁判所ごとに異なります。

必要書類は次のとおりです。

  • 被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
  • 被相続人の住民票除票又は戸籍附票
  • 申述人(相続人)全員の戸籍謄本

戸籍謄本の収集には日数がかかることがあるため、3か月の期限を意識して早めに動き始めます。専門家への報酬や、戸籍取得にかかる実費は個別の事情で変わるため、依頼する場合は事前に見積もりを確認してください。

無事に受理されたら手続きが終わるわけではなく、そこから本格的な作業が始まります。

限定承認のあとが大変|5日以内の官報公告・2か月以上の申出期間・競売による換価

限定承認は、申述が受理されたあとの負担が大きいことが知られています。

限定承認の流れ

限定承認者は、限定承認をした後5日以内に、すべての相続債権者と受遺者に対して、限定承認をしたこと及び一定期間内に請求の申出をすべき旨を官報で公告しなければなりません。この申出期間は2か月を下ることができません。あわせて、分かっている債権者には個別にも知らせます。

弁済のために相続財産を売却する必要があるときは、原則として競売にかけます。ただし、家庭裁判所が選任した鑑定人の評価に従って相続財産の価額を弁済すれば、競売を止めることができます。実家を手放さずに残したい場合に関わる仕組みですが、具体的な進め方は個別の事情によるため、弁護士・司法書士に相談してください。

こうした手続きの負担に加えて、税金にも独特の注意点があります。

税金の注意|限定承認では「譲渡があったものとみなす」規定がある

限定承認には、相続税とは別に、所得税の面で押さえておくべき規定があります。

限定承認による相続で、不動産など譲渡所得の基因となる資産の移転があった場合には、その時における価額に相当する金額により、資産の譲渡があったものとみなす規定があります(所得税法59条)。これは「みなし譲渡」と呼ばれ、相続時の時価で故人が資産を譲渡したものとして扱われる考え方です。税額の計算や、誰が・いつ申告するかは財産の内容によって変わるため、税理士に確認してください。

なお、故人に一定の所得があった場合、相続人は相続の開始を知った日の翌日から4か月以内に準確定申告を行う必要があります。限定承認によるみなし譲渡所得がこの準確定申告に含まれるかどうかは、財産の内容や税額によって扱いが変わるため、こちらも税理士・税務署に確認するのが確実です。

賃貸物件など収益を生む財産が相続財産に含まれている場合、限定承認をしたあとに発生する家賃収入は、通常の相続と同様に各相続人の相続持分に応じて課税されます。限定承認は「条件付の相続」にすぎず、財産から生じる収入の課税関係は単純承認の場合と特に変わりません。

税金は専門家に任せるとして、限定承認を検討している間、遺品整理の現場ではどう動けばよいのかを次に見ていきます。

限定承認を考えているなら、遺品整理は「処分しない片付け」まで

限定承認を検討している段階でも、片付けを完全に止める必要はありません。ただし、処分と受け取られる行為には注意が必要です。

相続人が相続財産の全部又は一部を処分したときは、単純承認をしたものとみなされます(民法921条)。さらに、限定承認や相続放棄をした後であっても、相続財産の全部又は一部を隠匿し、私に消費し、又は悪意で財産目録に記載しなかったときも、単純承認をしたものとみなされます。限定承認を選んだつもりが、あとの行動によって単純承認扱いになってしまうおそれがあるということです。

限定承認を検討している段階の片付けは、次までにとどめます。

  • 写真と目録で記録する 何がどこにあるかを、処分せずに記録する
  • 貴重品は保管する 通帳・現金・貴金属などは使わず、そのまま保管する。現金が出てきたときの扱いは遺品整理で現金が出てきたら、通帳や口座凍結については遺品整理と通帳・口座凍結にまとめています
  • 売却・廃棄は方針が決まってから 明らかなゴミの処分にとどめ、家財の売却や廃棄は限定承認するかどうかが固まってから行う
  • 業者に事前に伝える 遺品整理業者に依頼する場合は「限定承認を検討中である」ことを契約前に伝え、処分してよい範囲を明確にする

何が「処分」に当たるかの詳しい線引きは遺品整理と相続放棄で解説しています。相続放棄を検討する場合と同様、限定承認でも迷ったら片付けの手を止め、先に専門家へ相談するのが安全です。相続放棄をしたあとに残る実家の管理義務については相続放棄後の空き家の管理義務も参考になります。

こうした片付けの相談や、限定承認の申述先を福井で探す場合の窓口を最後にまとめます。

福井で相談するなら(福井家庭裁判所と支部・弁護士・司法書士・税理士)

限定承認の申述先は、故人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。福井県内には、本庁と2つの支部、1つの出張所があります。

拠点郵便番号所在地
福井家庭裁判所(本庁)910-8524福井市春山1-1-1
武生支部915-8524越前市日野美2-6
敦賀支部914-8524敦賀市松栄町6-10
小浜出張所917-8524—

どの市町がどの支部の管轄になるかは、裁判所サイトの申立書提出先一覧で確認します。限定承認は、家庭裁判所での申述(弁護士・司法書士)、税金のみなし譲渡や準確定申告(税理士)と、相談先が分かれる手続きです。早い段階で専門家に相談することで、3か月の期限内に必要な準備を終えやすくなります。

限定承認を検討していて、実家の片付けや遺品の扱いに迷う場合は、状況を相談フォームからお送りください。処分せずに進める片付けのめやすをお伝えします。

よくある質問

限定承認とは何ですか?

相続人が、相続によって得た財産の限度でのみ故人の借金や遺贈を弁済することを条件に、相続を承認する方法です(民法922条)。財産と借金のどちらが多いか分からないときに選べる、単純承認と相続放棄の中間にあたる制度で、相続人全員が共同で、相続の開始を知ったときから3か月以内に家庭裁判所へ申述する必要があります。

限定承認と相続放棄はどう違いますか?

相続放棄は財産も借金も一切引き継がず、各相続人が単独で選べます。限定承認は、財産が残れば相続でき、借金は相続した財産の範囲でのみ負担しますが、相続人全員が共同で行わなければ成立しません。期限はどちらも3か月以内です。財産や借金の状況、相続人どうしの足並みによって向き不向きが変わります。

限定承認の手続きにはいくら費用がかかりますか?

家庭裁判所への申述にかかる収入印紙は800円分で、郵便料は裁判所ごとに異なります。これとは別に、戸籍謄本の取得費用や、財産を換価する際の鑑定・競売にかかる費用が生じる場合があります。金額は個別の事情で変わるため、弁護士・司法書士に確認してください。

限定承認をすると税金はどうなりますか?

限定承認による相続では、不動産などの資産をその時の価額で「譲渡したもの」とみなす規定があります(所得税法59条、みなし譲渡)。税額の計算や申告が必要かどうかは個別の財産内容によって異なるため、税理士に確認してください。相続財産から生じる家賃などの収入は、通常の相続と同様に各相続人の持分に応じて課税されます。

相続人の一人が反対したら限定承認はできませんか?

限定承認は相続人全員が共同で行う必要があるため、一人でも反対すれば成立しません。すでに相続放棄をした人がいる場合の扱いなど、個別の組み合わせによって結論が変わる論点もあるため、家庭裁判所や弁護士・司法書士に早めに相談してください。

関連記事